TRPGを作ろう Last Note 〜スキルシステムの魔〜

経緯

私が大好きな『式姫Project』というIPがあります。
https://www.shikihime-project.com/

いわゆるネット・スマホゲームを中心に展開していたのですが、全てのゲームがサービス終了の憂き目を見てしまい、しばらく経っています。
(新作は鋭意製作中みたいです! この機会にフォローをお願いします)
https://www.shikihime-project.com/nextworld_prj

そんな界隈で、みんなで式姫と遊べるようなTRPGを制作していました。過去形になっているのは、すでに完成して発行済みだからです。
二次創作式姫TRPG『とこしえの縁』は以下のリンクで頒布していますので、ぜひお手に取ってご覧ください。

物理書籍
https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=2272338

電子書籍
https://booth.pm/ja/items/5435992

さて、前回の記事ではゲームシステム仮FIXの後に起こった「ゲームに遊ばされる」ことの恐怖を書き綴っていました。
その後、ゲーム制作はいよいよ佳境を迎えます。具体的には「スキル」の決定という魔境へと。今回はスキル設計の時に考慮した「バランス」への課題と、それにどう対処していったかを思い出しながら書いていきます。

たった二月三月前のことですが、思い出してみれば朧げな思い出になってしまっています。備忘の意味もこめて。少々お付き合いください。

これまでのゲームシステムとの「バランス」

今回制作した『とこしえの縁』では、キャラクターについて以下の大命題がありました。

  • キャラクター間で明確な有利不利を設けない
  • 好きな式姫を好きだという理由だけで選んでもゲームに参加・活躍できる

このために、今まで積み上げてきたゲームシステムは、割と徹底的に「式姫ごとの差異」を生み出さないような設計になっていました。式姫固有のパラメータはあえて設定せず、「殴れる盾」「守れる魔導士」をプレイヤーの意思で生み出せるようにしていたのです。

ただ、この思想をそのままスキルに適用してしまうのは危険でした。なぜなら「どのキャラ、どのスキルを選んでも同じ」である状況は、TRPGが持つ「TRP」の部分を強く押し出しますが、「RPG」の部分を無に帰してしまうからです。会話は弾むかもしれないが、ゲーム部分が作業と化してつまらないゲーム性になってしまうということです。

上記のキャラクターに対する命題も製作陣の強い思いでした。一方で私たちは、このゲームでプレイヤーには「楽しんでほしい」という命題も同時に持っていました。この二つの間のバランスを取るのが、最初の課題でした。

キャラクターに愛着をもつということ

一瞬、二律背反のように見える上記の二つ、つまり「キャラの間の差分を出さない」と「ゲームを楽しんでほしい」ですが、ここでも問題を一段抽象化することが有効でした。つまり、「なぜキャラの間の差分を出したくなかったのか?」という問いです。

その答えは「すべての式姫を平等にみてもらいたい」ということです。これは言い換えれば、「すべての式姫に愛着を持てるようにしたい」ということに他なりません。

作成したキャラクターに愛着を持つということは、「ゲーム(この場合TRPG)を楽しむ」ことの必要条件です。キャラクターを愛せるから、ゲームに没入できる。RPができる。戦闘でも負けたくないと思える。そういうダイナミズムがTRPGにはあります。故に、考え方を変えて「この(すべての式姫が横並びな)状態からどのように愛着を持てるようにするか」を考えました。

その結果、以下のことを決めました。

  • スキルは武器種別ごとに分ける
  • 武器種別ごとの固有スキルを設ける

また、この議論の中で「式姫自身の武器種別は変更できない」という重要なことが決まったことも付記しておきます。それはともすれば、式姫が持っている重要な個性の一つを吹き飛ばしてしまう意思決定だったからです。それは、式姫に愛着を持つことを阻害してしまうのです。

役割の固定化に対する「バランス」

さて、上記のように意思決定をすると必ず発生する問題が、「式姫種別ごとの役割の固定化」です。例えば、指輪の式姫は回復術を得意としますが、原作に準拠してこれだけしか取れないようなシステムにしてしまうと、回復以外やることがなくなってしまいます。それはそれでゲーム体験を硬直させ、ひいては「式姫に愛着を持つ」ことも難しくなってしまいます。

ここについては比較的早めに結論が出ました。つまり、「得意なスキルの設定」です。

  • スキルにも武器種別を設ける
  • スキルと式姫の武器種別が一致する場合、その発動に必要なコストが軽くなる
  • 式姫とは違う武器種別のスキルも、正規のコストを払えば発動できる

こうすることで、例えば攻撃力に振った盾は、攻撃職のスキルを取得することで活躍できます。防御に振り切った指輪式は、盾のスキルなどを取得することで活躍します。

重要なことは、これらの「活躍の場の設計」をプレイヤーの手に委ねるということだと考えています。

前回の記事でも紹介した、「ゲームに遊ばされている感じ」を極限まで排除する。そのためにもこの、「自分の式姫は何ができるか」を「自分で決める」システムは大きく寄与したと思っています。

武器種別間の「バランス」

さて、ここまで決まってもなお、道なかばなのがスキルの設計です。次に待っているのは、スキルによる武器種別間の「差別化」と「有利不利の均等化」という一見矛盾する調整でした。

ただ、この点は原作付きのゲームであることが幸いし、そこまで難しくはありませんでした。参考元とした『かくりよの門』におけるスキル設定を大きく参考にした形になります。

  • 刀:攻撃を、正面から受けて反撃するのか、当たらないように避けていくのか
  • 槍:確率を味方につけられるか
  • 斧:大火力をいかに叩きつけるか
  • 弓:牽制とトドメをどのように引き受けるか
  • 術:高火力と防御力をどう両立させるか(後述します)
  • 指輪:回復を担いながらどう立ち回るか

もっとも難産だったのは、実は術だったりします。数値を簡素化するために術攻撃力と物理攻撃力を統合した結果、そのまま実装すると術と斧の特性がもろかぶりしてしまったのです。
そこで術には、「術に対する抵抗力が高い」という特性を付与し、術防御特化盾として活躍できるように設計しました。

ダメージや効果の「バランス」

大項目をつけてはみましたが、ここまできたらあとはテストプレイを回すことが何より重要でした。

一応、振れるダイスの数をもとに机上でダメージの想定値を持ってはいました。しかし実際にプレイしてみると、ダイスを使っているが故に「上下ブレの差が激しい」「平均して弱い」、逆に「安定して強すぎる」などのフィードバックがたくさん上がりました。

また、このスキル内容が確定した段階で、ルールの不備が見つかることも多々ありました。その都度ルールに戻って修正を行い、さらに修正したルールでプレイを行う。これを繰り返していきました。

この中で大きな意思決定としては、「武器種別が一致していれば無料で発動できるスキル」を設定したことです。継戦能力を取るか、そのスキル枠をもっと強力なスキルに割くかの選択肢を生んだ状態です。また、最低保証のスキルが生まれたことで、ダメージ量・効果量の基準点ができたことも大きな利点でした。

そんなこんなで、ルールブックに記載しているスキルが出来上がりました。

「バランス」調整の深淵

スキルのバランス調整にはおよそ1ヶ月間をかけました。それでも、もしかするとまだバランスが悪い、すなわち「ゲームを楽しむために不要」なスキルがあるかもしれません。

バランスを検証仕切れたかどうかは、私たちからは「やった」と胸を張って言いますが、評価するのはプレイヤーの方々です。その非対称性を受け入れるが物事を発表することの第一歩ですが、何度やっても慣れないものですね。

ひとまず完成! というわけで

制作も終了し、世に物を出しましたので、一旦この連載は終わります。

もし「こんなこと聞きたいよ」とかあればお気軽にTwitterのDMかなんかでご連絡ください。可能な限り、いつか書かせていただきます。

最後に再掲になりますが、式姫二次創作TRPG『とこしえの縁』は以下で頒布してます。ぜひお手に取ってご覧くださいね。本文94Pフルカラーの本誌はずっしりきます。電子版でもぜひ。

物理書籍
https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=2272338

電子書籍
https://booth.pm/ja/items/5435992

それでは、また何かの制作でお目にかかりましょう。
願わくば、この作品が繋いだ縁が、永久に続きますように。