TRPGを作ろう Vol.2 エイヤで決めるテストプレイ

制作開始の経緯

私が大好きな『式姫Project』というIPがあります。
https://www.shikihime-project.com/

いわゆるネット・スマホゲームを中心に展開していたのですが、全てのゲームがサービス終了の憂き目を見てしまい、しばらく経っています。
(新作は鋭意製作中みたいです! この機会にフォローをお願いします)
https://www.shikihime-project.com/nextworld_prj

そんな界隈で、みんなで式姫と遊べるようなTRPGを制作しています。

前回の記事では、メンバー間の認識を共通化して同じ目標に向かっていくことが重要だということを述べ、そのためにやったことを書きました。

みんなで遊べるようにするためには、テストプレイが必須です。今回はそのあたりの話をしていこうと思います。

8割決まってからが、8割かかる

↑の言葉、嘘みたいだけど本当のことです。ものごとを作り上げるうえで、必ず意識しなければならない言葉だということを、今回TRPGのαテストバージョンを整備するにあたって感じました。

私が「8割決まったからもう安心だ」と思うことになったマイルストーンは、様々な「パラメータ」の決定でした。具体的に言うと、以下のようなことが結構とんとん拍子できまったのでした。

  • 式姫の人格を表す、「魂」・「性格」と「特徴」レーダーチャート
    • 式姫が初見の人でも、この式姫がどんなキャラクターなのかを掴んでもらうためにきめた、フレーバーに近い文言や数値でした。
  • 式姫とPCの探索能力を示す「探索パラメータ」
    • 探索パートで使う能力値の名称を6つ定めました。これによって探索シナリオが作成可能になり、見た目上スケジュールが前倒しで来てるように見えました。
  • 判定の方法
    • 6面ダイスを使った判定を行うことに加え、成功数判定を使うこと、特別にヒロイックなエクストラロールの3種類など、割かし複雑そうに見えたことがサクっと決まりました。

さて、マネジメントの心得があってもなくても、TRPGをやったことがある方ならば、上の3つではテストプレイに向けては何も決まってないことが明らかかと思います。

ゲームプレイとは直接関係ない値は、テストプレイに向けた進捗と呼んでいいのか?
判定方法と能力値は決まりましたが、それをどのように運用するのか?
片翼を担う戦闘は結局後回しでいいのか?

そのツケがたまりにたまって、プロジェクトは結局2か月の大ビハインドの憂き目を見ることになります。

合議制の罠と解決策

このころからメンバーのモチベーションも徐々に下がってきて、会議への参加率も下がっていました。
私はこれを、「進捗が上がらないせいで興味度が薄れているんだ」と勘違いをしていました

しかし、いま一度メンバーの内訳を振り返ってみたときに気づきがありました。「式姫と遊ぶ」ことに興味が強いプレイヤーと、「TRPGを作る」ことに興味が強いプレイヤーと、2種類がいることに気が付けたのです。

当初、私は「メンバー間全員の認識を合わせ、合議することが何より重要だ」と考えていました。それは間違いではなかったと思います。少なくとも、最初のチームビルディングの過程においては。
しかし議論が細分化し、各々が思う「8割」が過ぎ去った後、残りの2割を詰める段階ではそれは間違いでした。なぜなら、それは興味のない分野に対する議論を強制することになるからです。興味がなく、過ぎ去るだけの会議がいかに退屈なことかは、皆様にもご経験があるでしょうから割愛しますが、ともあれそういった状況を強いてしまっていたことに気づきました。

上記、全員で意識合わせをするという方針は、意思決定の速度にも悪い影響を与えていました。つまり、全員が集まれる日時を探るあまり、会議の頻度とフットワークが非常に重くなってしまっていたのです。ビハインドの原因はここにあったのですね。

そういうわけで、解決策としては以下の2つを打ちました。

  • 会議体を「システム関連」と「キャラクター設計関連」に分け、それぞれに責任者を置いた。会議の頻度は、それぞれの長に任せることとした。
  • それぞれの会議の進捗を吸い上げる「総会」を定義し、2週間おきに開催することとした。

その結果、主にキャラクター設計側の意思決定速度が上がりました。システム関連側もほかの議題を気にすることなく議論に集中でき、精度の高い意思決定ができたものと思います。

最後の1割はエイヤでもたたき台が重要

そんなこんなで引き直したマイルストーン通り、6月の第3週には「探索パート」のみのテストプレイが可能な状態にまで持ち直しました。あとはこのままテストプレイ……と考えていたのですが、そこでまた疑問が浮かび上がってきます。

「せっかくテストプレイするんだから、戦闘も入れたくない?」

入れたいです。しかし議論の場を設けて戦闘システムをくみ上げる時間はその時にはもうありませんでした。
(先だって界隈の外の方からのご意見を賜りたくお声がけをしており、予定がずらせなかったのです)
フルで遊べるテストプレイのほうが、参加してくださった方々にもいい体験として持って帰ってもらえるはずです。

なので、戦闘システムについては一切の合議を経ず、1週間でさっくり決めてしまいました。もともと成功数判定を用いる判定方法は定義できていたので、それをベースに対抗ロールをしてダメージ・回避などをするように決めれば終わりでした。わりと簡単に決まったと思います。

もちろん、これでFIXする気は全くありません。実際にテストプレイであらも出ていました。とはいえ、これを仮決めしていなければ絶対に出てこなかったフィードバックでもありました。せっかくの機会を十全に生かすために、必要な意思決定だったと思っています。

実はその判定システムを決めたときもそうだったのですが、戦闘システムについても議論を尽くした結果一度煮詰まった箇所でした。皆の8割が見えていて、残りをなんとか決めなければならない状態だったのです。

そのときに有効だったと思うのが、「とりあえず最低限のたたき台を出す」という行動だったと思います。これは、ともすればその案が既定路線になってしまう危険性を持った諸刃の刃でもありますが、膠着した議論の着火剤・推進剤として機能することもあるという大きな利点も持っています。

どうしても議論が煮詰まったら、いったんエイヤで決めてみて議論を前に進める。

プロジェクトを前に進めるためには必要な、独善だと思いました。

制作状況について

このようにいろいろないきさつを経て、ついに式姫ProjectTRPGのα版は完成し、探索→戦闘への一連の流れを体験できるようになりました。

今後はテストプレイのフィードバックを様々なプレイを通して収集し、ルールやシステムのブラッシュアップに努めていきます。

一方で、そろそろ「頒布可能な体裁にするタスク」に着手する必要も出てきます。今後の記事では、おそらくこの辺りを中心に取り上げていくことになるかと思います。
テストプレイからのナレッジ回収のノウハウについても書ければいいなと思っています。

それでは、今日はこの辺りで。
引き続き冬コミC103をお楽しみに。